翻訳会社を作るという話

2019年8月7日

最初の就職先はコンピュータ書籍の出版社で、そこで書籍の編集を2年、次に雑誌の編集を半年やった後、当時始まったばかりのDTP1環境での編集作業を半年程行って、フリーランスになった。

フリーランスといってもそれまで勤めていた会社から仕事をもらって自宅のMac IIfx2上のPageMakerで作業をしていただけなので、今ならフリーランスというよりは在宅勤務と呼んだ方が近そうだ。

転機はFrameMaker3を使わないといけないDTP案件の打診をもらったこと。当時発売されたばかりのFrameMakerはSUN4の高価なワークステーション上で動いていて、私には一式数百万する環境を用意できる余裕はまったくなかったのだが、お客さんの会社の従業員が帰った後なら会社のワークステーションを使っても良いと言われてその仕事を受けることにした。

その会社のワークステーションは毎日夜8時から朝8時まで使えることになっていて、そういう生活を何ヶ月か続けたのだが、その経験がベースとなって今の会社の前身となる会社を作った。FrameMakerやInterleaf5といったUNIX6上のDTPツールを使ったローカライズDTPの会社である。会社を作ったといっても何年も身内でやっており、実際に新しいアルバイトを募集したのは1990年代半ばのことではなかったかと思う。

最初に募集したのは2人だったのだけど、応募してきた人に小学校4年からストーンズを聴いていたというちょっとマセた子がいて、資金繰り的には苦しくなるのだが、結局その子も含めて3人採用した。他の2人は私が卒業した学校の後輩、そして外大の英文科を出たばかりの子。いずれも新卒であり、この会社にいれば全くの未経験でも一定の期間でUNIX DTPのPMとして業務を行えるようになるという触れ込みで応募してきた子たちだ。

弊社が翻訳会社になるきっかけは、FrameMakerのMacOS版が開発されることになり、そのUIの翻訳の打診が来たことだった。今では誰も信じてくれないだろうが、DTPで付き合いのあった翻訳会社の翻訳トライアルになぜか私が合格し、そのことが翻訳案件が打診されるきっかけになった。もちろん、FrameMakerでの業務は長かったので、そっちの方が理由として大きかったのだろうとは思われるけど。

UI7のうちメニュー関係の用語の翻訳を私の方で行った後に、続いてメッセージ関係の翻訳の依頼がきた。それを外大の英文科卒のアルバイトにやってもらうことにした。もう20年以上も前の事だから内情をばらしても良いだろう。

ローカライズDTPとは英語版のDTPソフトで作られた英語版のドキュメントに、翻訳された日本語テキストを流し込んで日本語版のドキュメントを作成する業務である。

したがって、作業者は英語とその対訳をひたすら見ることになる。翻訳業務を行うにあたっては、どうもこの経験が役立ったようだ。何年も意識して対訳を見ていればどう訳せば良いのかの作法も身につくということだろう。

当初は翻訳部門を作ることは全く考えていなかったのだが、このことがきっかけとなって翻訳業務を拡大しようということになった。

その時に一番のネックだったのは納期とボリュームである。業務として翻訳を行っていくには、それなりのボリュームの仕事を一般的な納期で納めなくてはいけない。翻訳経験もほとんどなく、全くのゼロから翻訳部門を作っていくにあたって、これは実は簡単なことではない。

この問題は自社では解決できないため、結局お客さんに相談したのだが、担当の方が素晴らしい方で、私達の翻訳部門が順調に成長できるように適切に業務を振り分けてくれるというのだ。

それから20年以上立ったが当時のアルバイトは弊社のメインエディターであり、現在は難度の高い某G○FAの英日ITマーケティング翻訳のエディット作業を行っている。

翻訳者になるためのハードルが今ではあまりに高くなりすぎてしまい、この話は翻訳会社を作りたい人にとっては何の役にも立たないだろうが、どのような会社にも始まりというものはあり、弊社の場合はこうだったということである。

脚注

  1. DeskTop Publishing(机上出版、デスクトップパブリッシング)の略。1985年1月の米国Apple社の株主総会において、米国Aldus社の社長ポール・ブレイナードが、Apple Macintosh(コンピュータ)、Apple LaserWriter(レーザープリンター)、Aldus PagerMaker(DTPアプリケーション)による出版環境をDeskTop Publishingと呼んだのが最初と言われる。
  2. 1990年頃に発売されたApple社のコンピュータ。今から考えればとても高価で100万以上もした。今なら、秋に発売される予定のMac Pro+Pro Display XDRを購入するような感覚か
  3. 米国FrameTechnology社が開発したDTPアプリケーション。その後、Adobeに買収された。
  4. 米国Sun Microsystems社の略。ワークステーションメーカー。その後米国Oracle社に吸収合併された。
  5. 米国Interleaf社が開発したDTPアプリケーション。その後米国Broadvision社に買収された。
  6. 1969年にAT&Tベル研究所で開発が始まったマルチタスク・マルチユーザーのオペレーティング・システムで、現在では、Mac OSやLinuxにも搭載されている。
  7. ユーザーインターフェイス(User Interface)の略

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